第125号 来年度家庭用SOFCの実証運転を開始
Arranged by T. HOMMA
1.環境省と農水省の施策
2.経済産業省・資源エネルギー庁・NEDOによる施策
3.地方自治体による施策
4.PAFCに関する活動
5.MCFCの研究開発
6.SOFCの開発と実証研究
7.PEFC要素技術の研究
8.家庭用PEFCの実証試験
9.FCVおよびFC移動体の開発
10.改質および水素生成・精製技術開発
11.水素輸送および貯蔵技術の開発
12.水素関連計測・検知センサー技術
13.DMFCおよびマイクロFCの開発動向
14.DCFCの開発研究
・A POSTER COLUMN
1.環境省と農水省の施策
 環境省と農水省は生ごみや廃材、家畜のし尿などを利用する"エコ燃料"の普及と技術開発に乗り出す。清掃工場に発電施設を併用することなどを支援する他、電気・ガスを効率よく生み出すプラント技術や、し尿から水素の原料となるメタンガスを作る発酵技術の開発を後押しする。具体的には、1) 生ごみや下水汚泥など湿ったバイオマスを発酵させてメタンガスを作り、都市ガスや発電に利用する技術、2) メタンガスの1部を化学変化で水素に変えてFCの燃料に転換する技術、などである。他方、農水省は製材時に生じるくず材や間伐材、家畜のし尿に注目しており、例えば家畜のし尿を発酵させてメタンガスを作る技術の実験も進めて実用化を目指す。(日本経済新聞06年8月28日、日経産業新聞8月30日)
2.経済産業省・資源エネルギー庁・NEDOによる施策
(1)アメリカの研究所と交流計画
 経済産業省はアメリカ・ロスアラモス研究所との交流を通じて産学官連携のあり方を探る。ロスアラモス国立研究所は、施設を国が保有しながら産学複合体が運営に当たっている。研究開発では石油会社などエネルギー関連企業との関係が深い。経産省は同研究所の運営方法を参考にして、国、大学、民間企業が協力して先端技術研究の成果を生み出す仕組みを検討する。なお、同研究所はNEDO、産業技術総合研究所とFCや水素技術の開発で情報交換することについて覚書を締結している。なお9月13日、FC・水素技術の開発での提携に合意したと発表した。(日刊工業新聞06年8月31日、毎日、産経、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報9月14日、日経産業新聞9月19日)

(2)中小企業支援制度
 経済産業省・資源エネルギー庁は、新エネルギーに関する中小企業の技術開発から事業化までを一貫して支援する制度を導入する。優れた商業化の可能性と開発リスクが高いハイテクベンチャー企業のプロジェクトをアメリカ政府が支援する産業振興プログラム(SBIR)の日本版で、新型太陽光発電や高効率バイオマスエネルギー転換技術など、ベンチャー企業が持つ多様な新エネルギーの革新的技術を顕在化させて商業化に導き、新エネルギー産業を拡充していく。FCではマイクロFC、マイクロ改質器、水素分離膜などが対象となる。蓄電池は革新型リチウム電池材料が挙がっている。(日刊工業新聞06年9月4日)

(3)水素貯蔵技術のバーチャルラボ
 経済産業省は07年度から4年間に亘って、世界のトップクラスの研究者を中核とした"水素貯蔵材料先端基盤研究事業"をスタートする。画期的な吸蔵容量と性能を有する新規な材料系を探索するシミュレーション技術や解析技術を確立し、試作までを行うことにしている。これによって、FCV用水素タンク容量の増大と軽量化を図り、FCVの航続距離の増大を目指す。国内外の研究機関や企業を結び、研究拠点を設けないバーチャルラボ方式を採用する。(化学工業日報06年9月5日)

(4)あいち臨空新エネルギー研究所
 NEDOは、愛知万博で実証研究を行った新エネルギープラントを、中部臨空都市に移設して"あいち臨空新エネルギー研究所"として本格的な実証実験に着手する。8月24日に開所式が行われた。太陽光発電や生ごみを発酵させたメタンガスを利用するFC、それに電力の需給バランスを調整する2次電池を組み合わせることにより安定した電力を供給する研究で、愛知県や中部電力が参加する。(中日新聞06年8月24日、電気、日刊工業、日刊建設工業新聞8月25日)

(5)FC産業育成支援
 経済産業省は、FC産業の育成支援を加速、プラチナ、ルテニウムなど電極に不可欠な白金族金属について来年度賦活状況について調査に乗り出す他、FCビジネスへの参入を促すため、"新エネルギーベンチャー技術革新事業"を新たに推進する。(化学工業日報06年9月12日)
3.地方自治体による施策
 札幌商工会議所は9月19日、札幌市内で水素エネルギーを中心に事業化を進める"新エネルギービジネス研究会"の設立フォーラムを開いた。北海道に豊富な風力資源で水素を製造する技術を核に、新しい街づくりをにらんだビジネスモデルの検討と事業化に取り組む。研究会はNPO法人の"FC・水素エネルギーネットワーク"と協力して運営する。(電気、日経産業新聞06年9月20日)
4.PAFCに関する活動
 NEDOは、"FCを用いたシステムの適用拡大に関する調査"の委託先をKRIに決定した。PAFCを組み込んだ複数のシステムで想定される設備環境(地域)における物質収支の検討と経済性の評価や、海外普及で必要な経済的枠組みや人材開発などのソフトインフラに関する現状の整理と対応策の検討、などを行う。(化学工業日報06年9月8日)
5.MCFCの研究開発
 電力中央研究所は、10cm角単セルによるMCFCの長時間運転試験で5万時間の安定運転を達成した。劣化で最大要因のニッケル短絡が起きず、1000時間の劣化率が0.27%にとどまった。今後はエネルギー研究所に設置した数kW級MCFC装置で08年にも低コストしたシステムを実証し、実用化技術を確立する。(日刊工業新聞06年9月22日)
6.SOFCの開発と実証研究
(1)家庭用SOFCの実証計画
 経済産業省・資源エネルギー庁は、45%以上の高い発電効率が可能な家庭用(1〜5kW)SOFCを実用化するため、モニター実証を07年度から4年間行う。京セラ、大阪ガスグループや三菱マテリアル・関西電力グループの他、TOTO・日立製作所グループ、東邦ガス・住友精密工業グループ、アメリカ・アキュメントリックス、オーストラリア・CFCLなどが参加の予定。エネ庁は07年度予算概算要求に9億円を盛り込み、計画では初年度40台のSOFCを家庭に配置、1件1,000万円程度かかる費用のほぼ全額を補助する。家庭用としては、大ガス・京セラグループが実験集合住宅で発電効率49%、熱回収効率34%を実現している。SOFCを家庭に導入した際の監視員は必要としないなどの規制緩和についても06年度には決まる見通しで、2010年以降からの本格的な実用化を目指すとしている。(日刊工業新聞06年8月31日、化学工業日報9月4日)

(2)石炭ガス化トリプル発電
 経済産業省・資源エネルギー庁は、Jパワーが若松研究所で進めている高効率ガス化複合発電事業を加速することにした。SOFC、ガスタービン、蒸気タービンを組み合わせたトリプルコンバインドサイクルの発電技術に目途をつける他、石炭ガスからCO2を分離・回収するシステムの実証を行う。このため補助事業を07年度から3年間延長する。具体的には、石炭ガス化工程で発生するガスからシフト反応によって水素を取り出し、SOFCで発電、CO2の1部を化学吸着法などで分離・回収する技術も実証するもので、1500℃級ガスタービンで発電担効率は45%、トリプルコンバインドサイクル発電では55%の発電効率を目標にしている。(日刊工業新聞06年9月5日)

(3)シーメンスパワージェネレーション(SPG)とEnBW
 ドイツのSPG社とドイツ電力王手のEnBW社は、SOFCとガスタービンを組み合わせた1000kW級の高効率複合発電システムを共同で建設する方針である。08年までに基礎的な準備を完了し、12年に実証運転を開始する。すなわち、第1段階で、SOFC(反応温度900℃、排ガス出口温度600)およびガスタービンを個別に研究し、得られたデータを実証プラントの運転手方法などを開発する際の基礎データとして役立てる。第2段階では、SOFCとGTを組み合わせてプラント性能試験に取り組み、12年に実証プランとして運転を開始する計画で、70%の発電効率を目指す。(電気新聞06年9月14日)

(4)東工大と第1稀元素
 東京工業大学の矢島助教授らは第1稀元素化学工業(高知市)と共同で、イオン伝導体の酸化セリウムの構造を原子レベルで解明することに成功し、酸化物イオンが移動する拡散経路を確認した。測定には中性子を用い、高温下でイオンの配列と分布を調査した。具体的には、イットリアを添加した酸化セリウムを"高温中性子回析法"を用いてイオンの密度分布を観測、得られた密度分布を解析することによって、100℃以上の温度で酸化物イオンが広がっている様子を可視化することができた。酸化物イオンの拡散経路は、直線的ではなく曲線で移動すること、更にこの特徴は蛍光型と呼ばれる構造のイオン伝導体に共通であることを突き止めた。この成果はイオン伝導メカニズムの体系化に繋がると期待されている。(日刊工業新聞06年9月18日)
7.PEFC要素技術の研究
(1)豊橋技科大学
 豊橋技術科学大学の逆井教授らの研究グループは、界面効果を利用してナノ粒子のイオン導電性を飛躍的に高める技術を開発した。これは交互積層法によってコア粒子の表面にプロトン伝導体超薄膜を積層するもので、実験ではリンタングステン酸超薄膜を積層することによって、4桁以上の高いイオン導電率を観測した。近年、ナノ粒子界面や積層構造などによるヘテロ界面によってイオン導電率が飛躍的に上昇する現象が報告されており、イオン伝導体の設計指針として関心が高まっていた。又この交互積層法は、物質の持つ静電相互作用を駆動力として応用したもので、常温・常圧下で数ナノオーダーの均一な膜が得られる他、電荷を有する全ての固体表面への積層が可能なため、適用できる物質郡が広いという特徴を持っている。同研究グループは、この交互積層法によってヘテロ界面を制御することを目的に研究を行ってきた。今回の実験で作製したのは、ゾルゲール法で生成した熱的・化学的に安定で、かつ成形性の優れたポリオルガノシルセスキオキサン粒子をコアに、ポリカチオンを介してプロトン伝導体を積層したヘテロ界面構造の粒子であり、これを加圧融着することでシート化して電解質膜としての特性を評価した。(化学工業日報06年9月11日)

(2)バージニア工科大学
 アメリカ・バージニア工科大学の研究グループは、湿度が低い状態でも性能が落ちない電解質膜を開発した。この電解質膜はスルホン酸基を含み親水性の高分子からなるブロックと機械的強度があり疎水性高分子からなるブロックを結合させた構造で、親水性のある高分子が水を吸収し易いので、湿度が低くても水素イオンの伝導性が落ちないと説明している。(日経産業新聞06年9月13日)
8.家庭用PEFCの実証試験
(1)四国ガス
 四国ガス(今治市)は06年9月から天然ガスを使ったPEFCシステムを、今治市内の一般住宅に設置して実証運転を始める。PEFCは荏原製作所が提供した。 (愛媛新聞06年8月19日)

(2)ジャパンエナジー
 ジャパンエナジーは、LPG改質型定置式PEFC"JOMO ECOCUBE""の06年度分の設置を開始した。(化学工業日報06年9月1日)

(3)静岡ガス
 静岡ガスは9月4日、家庭用PEFCシステム設置試験の対象となる一般世帯の公募を始めた。試験は東京ガスの"ライフエル"を使用する。(静岡新聞06年9月5日)

(4)出光興産
 出光興産は家庭用PEFCの普及に備え、系列特約店と協力組織"FC-Net"を立ち上げた。FCを設置した65社が対象で、定期的に連絡会議を開催し、運転データや故障情報などを共有、メーカーへの改良注文も集約する。なお出光は05年にLPG仕様FCシステムの試験設置を開始している。(日本経済新聞06年9月18日)
9.FCVおよびFC移動体の開発
(1)日産自動車
 日産自動車は9月5日、12日からの"国際物流総合展2006"に、圧縮水素を燃料としたFCフォークリフトを出展すると発表した。カナダのジェネラルハイドロジェン社のPEFCを搭載している。(フジサンケイビジネスアイ06年9月6日、日刊自動車新聞、化学工業日報9月7日)

(2)鉄道総研
 鉄道総研は、PEFCで走行する電車を開発し、9月7日に国分寺市の同研究所で公開した。全長20m、100kWのPEFCを搭載し、80km/hの速度を出すことができる。将来FCの出力を300kWまで高める方針である。(東京新聞06年9月8日)

(3)JFEコンテイナー
 JFEコンテイナー(兵庫県伊丹市)は、東京ガス、関東農機(栃木県小山市)と共同でFCによる無公害ターレット式構内運搬車を共同開発する契約を結んだと発表した。開発期間は5年で生鮮市場や工場構内運搬車用に提供する。JFEコンテイナーはカセット式水素供給システムおよび車両内部の水素供給システムを担当、東京ガスは水素を供給する充填所の開発、関東農機は車両の開発を担当する。07年には試作車両を完成させ、08年度には東京ガスの工場など構内での試験運転を行う。(電気、日刊工業、鉄鋼新聞、化学工業日報06年9月12日、フジサンケイビジネスアイ9月16日、電波新聞9月18日)

(4)栗本鉄工所
 PEFCを搭載した電動車いすを、障害のある人たちに使ってもらう実験が、9月末にも大阪府で始まる。栗本鉄工所が開発したもので、充電池で走る従来型の2倍を越す連続10時間走行が可能で、障害者やお年寄りが気軽に外出できるようになると期待されている。この新型車いすは、大阪府が運営する大阪障害者職業能力開発校(堺市)の学生数人が校内を移動するのに使うもので、発電や走行性のデータを集め、安定性や耐久性を確認する。07年度以降には自治体への貸し出しを始め、その後は一般者向けのレンタルも検討する。この実験機は、専用の小型ボンベ4本に水素を充填すれば、連続10時間の走行が可能で、蓄電池は定期的な交換が必要であるが、FCはその必要がない。実用化に向けた課題はコストと水素ボンベの重量であり、実験機は1台数百万円、ボンベの重さは1本4.5kgで障害者が使うためには重過ぎる。電動車いす安全普及協会によると、05年度の電動車いすやカートの国内集荷台数は約27,000台であった。(朝日新聞06年9月16日)

(5)GM
 GMはFCVの早期商用化に向けて、07年秋から大規模な実用化試験に乗り出す。アメリカ国内3ヶ所で、合計100台以上のFCVを政府関係者やビジネスマンなど様々な職業や年齢層の人に貸し出し、データを収集、改良を加えて11年での商用化を目指す。(日本経済新聞06年9月20日)

(6)スズキ
 スズキがDMFC搭載電動車いすを開発した。07年に前半には公的機関と共同で耐久性などの実証試験に入り、09年中にも試験販売を開始する予定。(日本経済、中日、静岡新聞06年9月21日)
10.改質および水素生成・精製技術開発
(1)フレイン・エナジーと東京ガス
 ベンチャー企業のフレイン・エナジー(札幌市)は、東京ガスと共同で、食品廃棄物を発酵させて水素を直接生成する装置を開発した。このシステムは、先ずふすま、米ぬか、リンゴやブドウのしぼりかすなど、主に農産系の有機廃棄物を前処理し水素発酵槽に投入する。次いでシロアリの腸内から採取した細菌を水素生成菌として加えて発酵させ、発生した水素とCO2の混合ガスからガス精製装置でCO2を除去するプロセスである。果物の缶詰から糖液を処理した場合、メタン発酵法では約25日を要するのに対して、この新装置では1日で発酵を終えることができる。4トンの水素発酵槽で"ふすま"400〜800kgを処理すると、水素28〜56m3が生成できると述べている。又装置の価格はメタン発酵法に比べて大幅に安くなり、1,000万円程度を想定している。(北海道新聞06年8月23日)

(2) 太陽石油と萩尾高圧容器など
 太陽石油、萩尾高圧容器(新居浜市)、渦潮電機は8月28日、従来の触媒では不可能であったLPGに含まれる硫化カルボニルCOSを完全に除去できる脱硫触媒を開発したと発表した。アルミナ基材にスパッタリング法によってニッケルを担持させた触媒で、ニッケルをイオン化してアルミナに堆積させるため、高機能触媒の調整が可能になった。同研究グループによると「LPGを燃料とするPEFCの改質器の前処理脱硫に用いると、硫黄化合物によるトラブルが起こらなくなる結果を得た」としており、この成果は欧米でも高い評価を得ている。(愛媛新聞、化学工業日報06年8月29日、日刊工業新聞8月30日)

(3)明大とRITE
 明治大学の長井助教授とRITEは高温高圧下で気体中のCO2を分離できる膜を開発したと発表した。開発したのはポリイミド高分子膜で、CO2が溶け込む速度が天然ガスや水素よりも速い現象を利用して、天然ガスや石炭ガス化ガスに含まれるCO2を分離する。同助教授らは、ポリイミドの高分子構造を制御することで150℃、40気圧でもCO2の分離性能が落ちないようにした。膜の厚さは現状では約50μmであるが、今後100nmまで薄くして実用化を目指す。(日経産業新聞06年9月13日)

(4) 豊田中央研究所
 豊田中央研究所は、マイクロ波を使ってエタノールから水素を水蒸気改質する技術を開発した。水素製造のために2.45GHzのマイクロ波加熱装置を開発、触媒層のみを内部から短時間で加熱することができるので、始動性や負荷応答性に優れるという特徴を持つ。改質器にはエネルギーを集中できるシングルモード共振器(キャビテイー)を用い、改質器内に石英管を配置して、その中心部に触媒ペレット(ロジウム/酸化セリウム系)を挿入する構造になっている。改質温度500℃で、エタノール1モルから水素濃度70%、4.7モルの水素を得ることができた。(化学工業日報06年9月21日)

(5)KRIと阪大
 KRI(京都市)は大阪大学大学院西山助教授と共同で、塗布型の水素分離膜作製法を開発した。ゼオライト粉末を溶解して得られるアモルファスのアルミノシリケート骨格は水素より大きい分子を透過しない性質を持つことに着目し、溶解物をガラス基板上に10μmの厚さで均一に製膜して分離膜を作製した。ゼオライト結晶は8員環、6員環、4員環を持っているが、KRIは分子の徑が0.25nmと小さい水素のみを選択分離するために、6員環(0.28nm)、4員環(0.28nm以下)を活用することにし、ゼオライトを溶解してこれらを再集積している。(日刊工業新聞06年9月22日)
11.水素輸送および貯蔵技術の開発
(1)ソウル大
 韓国のソウル大学の研究グループは、水素を吸蔵する新しい合金を開発した。新開発した合金はチタンとポリアセチレンから成り、従来の合金に比べて25%以上大量の水素を吸収できると語っている。(日経産業新聞06年8月23日)

(2)ノッテインガム大
 イギリスのノッテインガム大学研究グループは、合金重量の6.07wt%に相当する水素吸蔵合金を開発した。新開発した合金は、ベンゼン、カルボン酸が3次元で結合した構造で、同研究グループは、今後は水素の吸収・放出速度を高める工夫を加えると述べている。(日経産業新聞06年9月20日)
12.水素関連計測・検知センサー技術
 産業技術総合研究所のセンサインテルレーション研究グループは、8月23日、0.5ppmから5%までの広い濃度範囲で水素を検知するセンサーを開発したと発表した。高性能セラミックス担持白金触媒をマイクロ素子上に集積化する技術を確立することにより、シリコンチップへの集積化が可能になった。この熱電式水素センサーは、基本的には熱電変換膜と白金触媒で構成され、水素と触媒との発熱作用によって発生する局部的な温度差を、熱電変換膜で電圧信号に変換し、水素濃度を検出する仕組みである。触媒は大気中の水蒸気の影響をなくして安定に動作させるため、100℃に維持して使用するが、同グループは触媒温度を維持するヒーター集積化技術も開発するとともに、熱電変換材料のSiGeをスパッター蒸着で成膜する技術も改良し、シリコンウエハー上に薄膜状の熱電膜、電極・配線、ヒーターを形成することに成功した。水素ステーションでの応用が期待できる。(日経産業新聞、化学工業日報06年8月24日)
13.DMFCおよびマイクロFCの開発動向
(1)NEC
 NECは、湿潤を抑制できる炭化水素系膜を採用した定常出力12W(最大出力20W)のDMFCスタックにおいて、メタノールクロスオーバーを30%抑制、400Wh/kgの重量エネルギー密度を達成した。新方式の薄型平面スタック(厚さ11mm)の開発や燃料供給技術の改良などによってこの性能を達成した。又カートリッジの燃料濃度を60vol%まで高め、運転時の燃料利用効率も0.8Wh/ccにまで向上させるなどの性能向上により、メタノール濃度50vol%でも実効出力密度45mW/cm2を確保した。今後は耐久性や耐環境性、堅ろう性、ユーザビリテーの向上、低コスト化を進めていく考え。(化学工業日報06年8月21日)

(2)NTTドコモ
 NTTドコモは9月11日、携帯電話向けFCを開発するアクアフェアリー(大阪府茨木市)への出資契約を結んだと発表した。アクアフェアリー社は独自の水素発生剤を用い、水から水素を発生させる仕組みを大幅に簡略化した。従来品の1/4のサイズで2倍以上の出力が得られる。(朝日、産経、日本経済、日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ06年9月12日、化学工業日報9月13日、電気新聞9月14日)

(3)JSR
 JSRは2010年に向けた中長期計画における新事業の1つとして、FC用電解質膜の開発を推進することにしている。同社が開発したのは芳香族構造の炭化水素系電解質膜で、ホンダFCスタックに採用されている。−20℃から95℃の幅広い範囲の温度で機能するのが特徴である。更にDMFC用ではメタノール水溶液の透過を抑制するバリアー層を設けた多層構造にすることで、メタノールクロスオーバーの抑制に成功した。なおDMFCについては、発電性能で出力密度の目標値である100mW/cm2を超える成果を得ている。(電波新聞06年9月20日)
14.DCFCの開発研究
 東京工業大学の伊原助教授らのグループは、固体の炭素が直接酸素と反応してCO2になる電気化学反応を使う小型DCFCを開発した。電池は実験段階で、電極と電解質を組み合わせたセルは直径2cm、厚さ0.3mmの円板状で、動作温度は750℃である。電解質膜にはガドリウムを加えたセリア系のセラミックスで、酸化物イオンが電解質膜を透過して空気極から燃料極に達し、そこで炭素と反応する。出力密度は約59mW/cm2で既存のDMFCと同程度であるが、DMFCに比べて燃料が固体のために燃料タンクが不要であり、携帯用FCとして実用化できると期待している。(日経産業新聞06年8月24日)

 ―― This edition is made up as of September 22, 2006 ―



・A POSTER COLUMN
エネ庁;CO2分離回収に着手
 資源エネルギー庁は、石炭を有効活用するためのクリーン・コール・テクノロジーの一環として、07年度から石炭ガス化ガスのCO2分離回収試験に着手する方針を固めた。試験はJパワーがNEDOと共同で実施する。同社の若松研究所内にあるFC用石炭ガス製造技術開発(EAGLE)パイロットプラントを利用する。
 同庁では07年度予算の概算要求に、EAGLEで実施する炭種拡大に向けた試験と併せ、19億円を新規に盛り込む。両試験は3年間の計画で、合計60億円の予算獲得を目指す。 (電気新聞06年8月22日)

経産省・NEDOがEVの実用化と普及に意欲
 経済産業省は8月23日、電気自動車(EV)を本格的に普及させるため、自動車用電池を産学官共同で研究開発する方針を固めた。07年から5年をかけて、リチウム電池の低価格化や軽量化、寿命の向上などに取り組み、EVの価格をガソリン自動車並に引き下げると共に、走行距離や最高速度などの性能アップを図る。
 開発プロジェクトには、NEDOを通じて主要メーカーの他、電力会社、大学などが参加する見通しで、2030年の本格的なEVの普及に向けた研究開発を行うため、07年度予算概算要求に事業費50億円を盛り込む。
 今後の開発目標は3段階に分かれ、先ず2010年を目途に、現在と同水準の性能を持つ電池の価格を半額にして、営業用車両で軽自動車から電気自動車へ買い替えを促す。次いで15年までには電池の性能を現在の1.5倍に高めるとともに、価格を1/7に引き下げ、EVが価格と性能の両面で軽自動車と対抗できるようにする。30年にはリチウム電池に替わる革新的な電池を開発、現在の7倍の性能と1/40の価格を実現し、ガソリン自動車に替わる本格的なEVの量産を目指す。 (読売新聞06年8月24日、電気、日刊工業新聞8月29日)

05年世界の風力発電容量は前年比43.4%増で過去最高
 05年の1年間に導入された世界の風力発電設備能力は、04年のそれに比較して43.4%増加し11,769MWを記録した。過去最高で、新規に導入された発電設備の総額はドルベースで140億ドルを超えた。これで世界の風力エネルギー総発電設備容量は59,322MWとなる。
 NEDOによると、世界風力エネルギー協会のまとめた05年新規導入容量は、アメリカがトップで2,431MW、次いでドイツの1,808MW、それ以外はスペイン、インド、ポルトガル、中国の順になっている。一方、アジアにおける設備容量の伸びは同49%増しとなり、全体では7,135MWを突破した。最も好調な市場はインドであるが、中国も06年1月に施行された再生可能エネルギー法への期待から市場を後押しし、05年の新規導入設備容量は前年比2倍近くに達した。 (化学工業日報06年9月11日)